小さなハートプロジェクト
シャトキラの識字夜間学校  
「りる」第12号より

     バングラデシュ      Y.K.

                     平成3年3次隊

                     村落開発普及員

 

  私は平成四年四月バングラデシュへ村落開発普及員として赴任した。自分の任地はシャトキラというところでインドの大都市カルカッタに近い地方であった。協力隊の活動対象や内容は一応定められており、私は三十歳までの八年生修了以上の青年の生徒を対象にこの地域で、村落の開発普及に取り組んできた。

 ところでバングラデシュでは貧困や家庭の事情により生徒の就学率が極めて低い。八年生修了以上の生徒ということは学校へ来ている人達のことで、そのことだけで優秀な学生・エリートということが出来た。

 私は村落開発の本業に尽力するかたわら、活動が進むに連れて、この国の社会生活の実態に大きな驚きを感じた。イスラム教を宗旨(しゅうし)とするこの国は家族制度の中で四人まで妻を持つことが許されている。このため男性は年を取った妻やその子供を捨て、若い妻に関心を持つ風潮がみられる。また結婚に当たって、女性が多額の持参金を持って行くのもこの国の古くからの習慣である。

 夫に捨てられた妻は「乞食」になるか「使用人になって働くか」道は二つに一つしかない。

 

 K隊員(中央)の自宅に集まった女性識字教室の生徒達(1クラス分)



 ところで「使用人」になるには書類に名前を書かなければならないことが多い。この場合、女性は学校教育を受けていないので(貧しくて学校へ行けないので)「読み書き」が出来ない。このため「使用人」になる道も閉ざされ、この人達や連れられた子供達の悲劇は後を絶つことがなく、社会の大きな問題となっている。

 そこで私はこれ等の女性に「文字」を教え何とか自活の道を開くことが出来るようにして上げたいと思い、自分の本来の任務が終わる夕方以降識字教育のための「シャトキラ夜間学校」を開いた。

 この際の「開校や運営の資金」として「小さなハートプロジェクト」により支援を戴いたことが大変有り難かった。この時の支援団体として「長野県駒ヶ根市の青年会議所」や「千葉県の柏第二中学校」(後記注)等の皆様が暖かい資金援助の手を差し伸べて戴いたことを今も深く感謝している。

  女性の識字クラス風景(唯一の電気のある教室)


 バングラデシュはこの国の置かれている立場から、我が国を始め、多くの先進国から多額の国際援助を受けている。それはそれで政府の国家財政を潤しているが、社会の本当に貧しく、厳しく、悲しい現実−−−これを克服改善し、一人でも多くの人に希望と幸福をもたらす配慮が為されていない憾(うら)みがある。

「シャトキラの識字夜間学校」はこれら社会の底辺と暗部に苦悶する人々に、喜びと光明を与えた最初の奉仕活動として大きな反響を呼んだ。私はこの春までこの識字教育を四年近く続けた。

 ここに途上国現地における「小さなハートプロジェクト」の活動体験と成果を報告し、任地の私に寄せられた皆様の暖かいご支援と配慮を心から感謝申し上げたい。

  男性の識字クラス(後列左JICA A職員、先生、右はK隊員)