ブルガリアでの日々(W)      「りる」第22号より

     ブルガリア       S.I.

                     平成9年度2次隊

                     日本語教師

 暑い暑い夏が過ぎ、短い秋もあっという間に通り越し、冬到来間近のブルガリアです。これで3度目の冬、でもこの寒さにもう慣れた、なんてことは決して言えません。やっぱり寒い。

日本文化デー
 さてさて、まずはかなり時期がさかのぼり、半年前の話になりますが、ここスヴィシトフ市で5月に行われた日本文化デーについて書こうと思います。以前から大学の学生だけではなく、広くこの町に住む人達にも日本文化を紹介したい、と思っていたのですが、なかなか実行に移せず、赴任1年半後にしてやっと実現させることができました。

 幸い、この町の劇場の持ち主がこのイベントに協力したいと申し出てくれたので、広報、場所の設置などをお願いすることができました。(ポスターでも貼ってくれたら嬉しいなあ、と思っていたら、地元のテレビ、ラジオ、新聞等で「日本の春」とかいうタイトルつけておもいっきりやってくれました。)当日は想像以上にたくさんの人が参加してくれて、ささやかではありましたが、大変楽しいイベントになりました。

  「日本文化デー」にて。多くの人が浴衣・着物を着てくれました。

 実際どんなことをしたかというと、折り紙、書道、囲碁、生け花にお茶と、芸達者な協力隊員やブルガリア在住の日本人の方、また、わざわざ日本から訪ねてくれた友人によって、様々なものを披露、同時にブルガリアの人も一緒に楽しめるよう、参加型にしました。中でも書道は大変人気がありました。みんな、自分の名前を日本語で書いたり、「花」「月」などの簡単な漢字を書いて、すごくおもしろい!と大騒ぎ。

中には「日本人はボールペンを使わないのか。」と勘違いした人もいましたが、とにかく大人気でした。規模そのものは小さかったので、お抹茶をたてて、参加者全員で飲むこともできました。きっと「苦い!」って言うだろうなあ、と思っていましたが、案外みんな「おいしい」と言っていたので、ブルガリア人の口に合ったようです。

 ここスヴィシトフは、「この町で迷子になることほど難しいことはない」と良く冗談で言われるくらい小さな町、イベントのもようはしっかりその日の地元ニュースで放映されていました。日本人、ブルガリア人関係なく、みんなが同じひとときを同じように楽しむことができ、ほんとうにいい一日でした。これをきっかけに、毎年一回、継続的にこういう機会が持てたら、と思いますが・・・。

  「日本文化デー」にて。生け花の説明をする学生。

ナ・ゴスティ
 次にブルガリア語でいう「ナ・ゴスティ」について書こうと思います。ナ・ゴスティ、お客さんとしてお家に招待されること、つまり「およばれ」を意味します。ブルガリアでは頻繁に行われるナ・ゴスティ、お茶を飲むだけから一緒に食事をしたり、何泊か泊まったりと様々ですが、今まで私が体験した中で一番驚きだったものを紹介したいと思います。

 何かとつけてお祝い事の好きな国ですが、知り合いの弟さんが高校を卒業したということで、そのお祝いのため知り合い一家のお宅に招かれました。この国で高校を卒業することは大きな意味を持つらしく、クラス単位で、または全卒業生がドレスアップしてレストランに行ったりと、かなり派手にお祝いします。さらに家族で近所の人を招いてお祝い、卒業してこれからは大人の仲間入り、日本で言えば成人式みたいな感覚なのかもしれません。

 その驚異的なお招きは午後の2時に始まりました。テーブルには私の他にも近所からお祝いに来た人達が座っており、テーブルの上には簡単なお酒のおつまみが並んでいました。まずはブルガリアの強いお酒、ラキヤ(果実酒ですが40度ぐらいあります)で乾杯、みんないろんな事をおしゃべりしながら、その後出された様々なサラダを肴に飲むこと飲むこと。

一般的にラキヤはサラダと、ビールは揚げ物と、ワインはお肉やお魚などのメインディッシュと合わせて飲むようです。1時間経ち、2時間経ち、サラダはまるで魔法のようにどんどん出てきます。3時間ほど経過し、これで終わりだろうな、そろそろ帰ろうかな、と思っていたらなんとメインのお肉料理がドカーンと出て来てびっくり、、その量が半端ではなく、めいめいの皿に豚肉、鶏肉、こっちでキュフテというハンバーグみたいなものがのっていて、再び「ナズドラーヴェ!!(乾杯!)」。今度はラキヤがワインとビールに変わってまた飲むこと飲むこと。

今日の主役のはずの弟さんなんかそっちのけ、みんなお喋りに夢中。すごい・・・。もうおなかいっぱいだったので、お皿のものを半分にしてもらおうとすると「おいしくないの?あんまり食べてないけど気に入らなかった?」とみんなが心配、「いや、おいしいんだけど(ほんとにおいしかった)、量が私には多くて・・・。」「そんな言い訳しなくても口に合わなかったらはっきり言いなさいね。」「ううん、ほんとにおいしいんだよ。」「じゃあ食べなさい。」とこの繰り返しで結局更に数時間経過、みんなお酒もまわってかなり陽気。

その後デザートで大きなケーキが2個、加えて果物にお菓子、時間は流れ、話は止まず、結局解散となったのは夜中の1時、トータルで11時間も話し、飲み、食べ続けたことになります。ブルガリアに来てこんなに長いおよばれは初めてのことで、かなり驚きでした。このペースについていけるブルガリア人ってすごい・・・。

 国そのものの経済は貧しいブルガリアですが、食べ物に関しての自給率は高く、食生活は比較的豊かだと言えると思います。広大で豊かな土地に感謝感謝です。逆に経済的には豊かでも、ありとあらゆる物を輸入に頼っている日本、どちらがどう、という判断はここでは下しませんが、この点で対照的なことはとても興味深く感じられます。

またたとえ貧しくてもお客ならば精一杯もてなすのがこの国の国民性でもあり、こうやってお客として招かれる度にとても暖かな気持ちになります。ただこれが続くと絶対に・・・太る!量だけでなく、ブルガリア料理は一般に油がたくさん使われお肉料理も多いので、若い頃はモデルのような女の子達も、この食生活だと将来はやっぱり今のおばちゃん、おばあちゃんみたいに迫力満点になるんだろうなあ、と思ってしまいます。

こちらの義務教育課程では日本のように家庭科で食生活について勉強しないので、「1日30品目」とか、「これは血や肉になってこれはエネルギーになる」とか「パンとお米は同じグループ」とかいうような知識がひとりひとりには普及していません。健康にいいのはやっぱり日本食のような気がする最近の私でした。
それではそれでは。また。