現地隊員レポート    「りる」第36号より

                                                    ブルキナファソ   N.S.
                                                             平成15年度3次隊
                                    
村落開発普及員                                                                


『セクおじさんの苗畑』

 初めての寄稿となります。
ブルキナファソ派遣、村落開発普及員の新明です。香川県青年海外協力隊を育てる会の皆様におかれましては、毎月のブルキナ事務所への送付物、大変ありがたく思っております。日本文化の紹介に、また、異国の地での気分転換や励みに活用させていただいております。この場をかりて、育てる会の皆様にお礼を申し上げます。

 さて、私の任国、ブルキナファソという国についてですが、初めて耳にする読者の皆さんもいらっしゃるのではないでしょうか。西アフリカの内陸国で、北西はマリ、東はニジェールとベナン、南はトーゴ、ガーナ、コートジボアールの6カ国に国境を接しています。気候は地域差がありますが、サヘル季候で乾期と雨期にわかれています。気温は25度から、乾期には45度ぐらいまで上がることもあり、生活環境は非常に厳しいです。

 私は、ブルキナファソでも北部に位置する、ワイグヤという都市に住んでいます。環境・生活環境省の北部地方局に配属され、JICA地方苗畑改修計画により改修された苗畑の管理や、砂漠化防止のための植林活動、環境に関する啓発活動を行っています。

 今回は、ブルキナファソという国の詳しい説明や、私のJOCV隊員としての活動報告はおいといて、一人のブルキナ人について書こうと思います。彼の名はウエドラオゴ・セクと言います。ウエドラオゴが名字で、セクが名前です。私は、自分の中でセクおじさんと呼んでいます。
  苗畑にて

私は、ワイグヤの個人苗畑をまわって、その現状を調査するという活動もやっており、そこでセクおじさんと知り合いました。幾つかの個人苗畑をまわりましたが、彼ほど味のある人物はいませんし、これまでに知り合ったブルキナ人を思い返しても、彼ほど記憶に残る人物は思い当たりません。
  ウエドラオゴ・セクおじさん
(後ろに見えるのが住居、右奥の小さな囲いはトイレ)

 彼は、自宅(50m四方ほどの土地)で野菜や粟等を作りながら、苗の生産も行っています。もともとは苗畑職人ではなく、知識も経験も無かったのですが、ブルキナの砂漠化を危惧し苗畑を始めました。育てた苗は、基本的に販売しますが、無料で配ったりもしています。そして、お客さんに植え方や手入れの仕方を指導したり、書き記しておいた住所をたよりに配布後の苗の成長具合を確かめに行ったりもしています。彼の緑化推進への心意気は、うちの地方局の森林官達にも見習って欲しいぐらいです。

 以下に、苗畑での彼とのやりとりを交えながら、彼の人柄を紹介します。

「苗生産に必要なポットはどうやって手に入れるのですか?」
「道端に落ちているミネラルウォーターの空袋を拾って使っとります。」
「苗の生産に関して、どうやって技術を学んだのですか?」
「見よう見まねで始めて、あとは友人などに教えてもらいながら覚えました。今でも分からないことが多く、よく教えてもらっとります。やろうと思ったら、物が足りんとか、やり方が分からんと言う前に、とにかく始めてみる事です。やりながら何とかなるもんです。」

 ほとんどの個人苗畑職人は、業者から普通のポットを買ったり、どこかの団体と提携していて、団体に用意してもらったりしています。子供達にお金を払って、ビニールの空袋を収集してもらうという人もいますが、自分で歩いて拾い集めるのは彼ぐらいです。

苗畑の技術に関しても、少なくとも研修は受けたことがあるという職人が多く、中には援助してもらっている団体の要請で、フランスで研修を受けたという人までいます。彼の状況は他の職人に比べて、恵まれているとは言えませんが、不平を言わずマイペースで苗生産を続けています。

「苗畑運営で一番苦労する所、問題点は何ですか?」
「朝早く起きて、ポットに土を詰める作業をしておると、泥棒と間違われる事があって困ります。」
「は??」
これまで取材した苗畑職人なら「道具や資金が足りない」とか、「注文した客が苗を取りに来ない」とか、「害虫がついて困る」といった答えが返ってくるのに、この突拍子も無い答えに、私は我が耳を疑い、3回ほど同じ事を言ってもらったのを思い出します。彼は、只者ではないと感じさせられた場面です。

「正直なところ、個人苗畑は商売として成り立ちますか?」
「何とかなっとります。今度、家の入口に看板を立てて、みんなが簡単に苗畑をみつけられるようにするつもりです。」
「その場合、看板には何と書きますか?《セク苗畑》ですか?」
「何人かの苗畑職人と組合でもつくっとれば、その名前を書くんでしょうけれど、わしはこの通り一人でやっとるんで・・・。苗州名は我々モシ族の言葉を使い《ウェンド・コフォ》とします。『神がお与えになる』と言う意味です。」

ワイグヤでは、外国の援助による植林計画の減少から苗が売れず、苗畑だけでは食べていけないと言う苗畑職人がほとんどです。セクおじさんのところも、そんなに順調にいっているはずが無いことは、彼の生活を見れば分かるのですが、現在の状況を全く苦とは思ってないらしいのです。

看板を設置するというのは、日本的感覚からすると、宣伝のためには当然だと思うでしょうが、私は看板のある苗畑は、まだ一箇所も見たことがありません。お金が無いからか、効果がないからかは分かりません。組合に関して説明を加えると、ここでは、援助が入りやすいと言う理由で、形式的に組合を作る場合が多くあります。彼はそういうやり方はしないと言う意味にも、一人で気楽にやっているという意味にも取れます。

 彼の家には合計で小さな部屋が二つあります。二部屋だけです。一部屋は彼の生活のための部屋です。もう一つの部屋には黒板、机と椅子が一組、そして石油ランプが置かれています。

「ここは何のための部屋なのですか。」
「ここで夜、読み書きが出来ない人のために、フランス語の読み書きを教えとるんです。街の学校でも、子供達が帰った後の教室を利用して週に何回か教えとります。報酬として、チョークを買うお金と、石油ランプの燃料費をもらっとります。」
  セクおじさんの自宅教室
(黒板右側にフランス語の単語の解説、左側には民族の歴史に関する質問が見える) 

 彼は、全くの善意で読み書きを教えています。自宅では、そんなに長時間は教えないらしく、苗畑への水遣(や)りが終わって、ひと段落した時のちょっとした時間、30分やそこらを利用して教えているらしいです。

 インタビューを続けるうちに、私は、ある一つのことが非常に気にかかりだしたのですが、そのことは聞くまいと思っていました。しかし、調査を共に行っている植林専門の女性隊員が口を開きました。

「あの、ここでは一人で住んでらっしゃるんですか。」やりおった!と思うと同時に、よく聞いてくれた!とも少し思いました。

「そうです。」
「奥さんは・・・。」
「逃げられてしもうて・・・。」

 途中から何となくそんな気はしていました。こんな金儲けそっちのけのやり方で、自分の生活には無頓着なセクおじさん、奥さんの方は付き合いきれなかったのかもしれません。果たして、おじさんは単なる変わり者か、さもなければ仙人なのではないだろうか、そう思いながら彼の家をあとにしました。

「いつでも立ち寄ってください。わしはいつもここにおりますから。あまり外出はしない性質なんで。」

 土塀で囲まれた彼の家の中には、彼の宇宙が存在している。
   セクおじさんの自宅
(正面の木々の後ろに住居が見える。苗畑は右手奥)

 ブルキナの隊員仲間がワイグヤを訪問することがあります。私の活動の一部が見たいと言った際には、彼の家へ案内することにしています。セクおじさんの苗畑兼自宅は、ワイグヤのちょっとした名所と言えるでしょう。