現地隊員レポート    「りる」第39号より

                                                    ブルキナファソ   N.S.
                                                             平成15年度3次隊
                                    
村落開発普及員                                                                


『サワドゴ第一夫人』

 香川県青年海外協力隊を育てる会会員の皆さま、お元気ですか。ブルキナファソの新明です。今、ブルキナファソは、サハラ砂漠からハルマタンと呼ばれる風が吹き、砂埃と乾燥の季節を迎えています。目や鼻、呼吸器系の病気にかかりやすくなるので、うがい、手洗いは欠かせません。

 さて、私の任期も残り4ヶ月をきり、そろそろ帰国の準備です。ブルキナの現場から『りる』への寄稿もこれで最後になりそうです。私の活動については、村でポンプ式深井戸を修理したり、植林活動を実施したりと、ある程度の結果を残せたので一安心しています。詳しい活動報告はいつもの通りぬきにして、今回もブルキナの人を紹介し、「ブルキナファソの『人』3部作」を締めたいと思います。

 前々回は、個人苗畑職人のセクおじさんを通してブルキナの男性を紹介し、前回は、靴磨きのアブドライ少年を通してブルキナの子供を紹介しました。簡単に彼らの近況をお知らせします。セクおじさんは、今年得たお金で苗畑の看板を作りました。苗畑名は「バオバブ」に決定。計画していた苗の露天販売は来年の植林時期まで待つことにし、現在は、知人と自転車を使って苗の行商をしています。

一方、アブドライ君は、今年度も学校には行けず、荷車でタロイモを運んだり、靴磨きをしてお金を稼いています。以前靴磨きをしていた食堂には客がいないということで、今は街を歩いてお客を探しています。

 さて、今回紹介するのはブルキナの女性です。私の家で夜の守衛をしているサワドゴ(姓)・ラスマネ(名)氏の第一夫人であるウエドラオゴ(姓)・サルマタ(名)夫人を紹介します。ブルキナでは、夫婦別姓をとるので、夫人の本名は結婚してもウエドラオゴのままです。村ではサルマタと名前で呼ばれているので、以下、サルマタ夫人と記述することにします。もう一つブルキナの婚姻制度について説明を加えておかなければいけません。
  左から、ザリサ第二夫人、サクァドゴ氏、サルマタ第一夫人

ブルキナファソのイスラム社会では、一夫多妻制が認められています。サルマタ夫人は第一番目の妻で、彼女の他にサワドゴ氏には、サワドゴ・ザリサという第二夫人がいます。

サルマタ夫人は今年35歳になります。夫のサワドゴ氏は今年で49歳。2人は1982年に結婚し、17歳になる長女から2歳になる末っ子の男の子まで、合計6人の子供がいます。ちなみに第二夫人の年齢は24歳で、サワドゴ氏と2002年に結婚し2人の間には2歳になる男の子がいます。第二夫人は、コートジボアールで生活していたのですが、2002年の内乱のせいでブルキナに戻った後、親の意向でサワドゴ氏のもとに嫁ぎました。

 現在、サルマタ夫人とその子供たちは、サワドゴ氏が住んでいる家の隣の別宅に住んでいます。第二夫人とその子供は、サワドゴ氏と一緒に住んでいるのですが、近々、第二夫人にも独立した家が与えられる予定です。寝る場所は別々ですが、食事は家族みんなで一緒に取ります。
  サルマタ夫人宅(隣には夫サワドゴ氏と第二夫人の家がある)

 日本では、一人の夫と複数の妻が一緒に生活するなど考え難いことですが、ブルキナファソの村落部においては、いたって普通の事です。サワドゴ氏にとっては、養う家族が増える分、生活費を稼ぐのに大変ですが、サルマタ夫人にとっては家事労働が半減されるし、何かの折に田舎の家族の世話をしに帰らないといけない時など、子供たちを預けることが出来るので、第二夫人の存在はありがたいものだそうです。

サワドゴ氏の家は何度も訪問していますが、私の見る限り、2人の夫人の間でも、お互いの子供達の間でも全く諍(いさか)いはありません。ブルキナの全ての一夫多妻制の家族が、サワドゴ家のように上手くいっている訳ではありません。夫人同士が大変仲の悪い家庭もあります。サワドゴ家に関しても、本当のところは分かりません。男性優位のイスラムの世界では、女性は不平不満を口にすることは出来ません。サルマタ夫人も不平不満に関しては口をつぐんでいる可能性があります。

 サルマタ夫人は6人も子供がいるので、これ以上子供を増やすことを望んでいませんが、サワドゴ氏はまだ子供が欲しいらしく、第二夫人との間にあと何人か子供を作るつもりです。村落では子沢山の家庭がほとんどです。子供が多いと、食べるものを満足に与えてあげられなかったり、十分な教育をさせてあげられないという問題が起こります。サルマタ夫人の子供は6人のうち4人の娘が就学年齢に達していますが、学校に通っているのは一人だけです。

 サルマタ夫人の家での大きな仕事は食事の準備です。朝7時に起床し、庭の掃除をしたあと、薪から火をおこして朝の食事を用意します。食事は第二夫人と一日交代で担当します。一日に2回、朝と夕に食事の用意をし、空いている時間は薪を集めにいったり、ソースに入れる木の葉を集めたり、子供の世話をしたり、時期によっては畑仕事をしたりします。そして、夜8時には床に就きます。
  順番に子供達を洗うサルマタ夫人

 そんなサルマタ夫人にとって、生活の中で最も楽しい事は何か尋ねたところ、彼女は考え込んでしまいました。変化のない村での生活では、そんな夫人の反応も納得できます。また、食べることが何よりも大変で、生活において、それ以外は瑣末(さまつ)なことなのです。毎日ご飯を食べることが出来て、子供たちが幸せに大きく育ってくれれば他に望むことはないと話していました。大金が手に入ったら何をしたいかという質問にも、ミレットを沢山買いたいとのことでした。

 サルマタ夫人とサワドゴ家を通して、我々はブルキナ家族の様々な側面を見ることが出来ます。しかし、私はそれらについてどうこう言うことを避けたいと思います。女性の地位や権利について問題視したり、家族計画についてあれこれ言うのは根本的に違うと思います。世界的に見て問題だらけでも村の宇宙の中では非常にバランスが取れていたりします。そして、バランスこそが途上国の開発を行うときに最も考慮しなければいけないことだと思います。

さて、皆さんはこんな家族の形を知って何を思いますか。
  サワドゴ氏と2人の夫人と子供達