帰国報告                    「りる」第35号より 

                                                    グァテマラ  K.S.
                                                             平成12年度3次隊
                                         ソーシャルワーカー
    


 ご紹介いただきましたSです。今日はグァテマラでの活動、というよりはグァテマラでの生活の中で感じたことなどを中心にお話したいと思います。

 私はグァテマラでソーシャルワーカーとして働いていました。私の働いていた場所は養護施設、今はもうこの言葉は遣いませんが、いわゆる「孤児院」のようなところでした。収容される子どもがたいへん多く、その理由として貧富の差が挙げられます。松岡理事のお話にもありましたが、世界の富の分配をシャンパングラスに例えるとシャンパンが入っている上の部分、つまり富を握っているのはほんの少しの人です。同じことがグァテマラ国内でも言えます。豊かな人はほんの一握りの人たちで、貧しい人々が国民の大部分を占めています。

 グァテマラでは人身売買のための誘拐が多く、一日に平均6人もの子どもが誘拐されているという現状があります。子ども達にとっては危険な環境なので、グァテマラではどの家も外壁を頑丈にして外からは家の中の様子が見えないようにしています。また、洗濯物も子どもがいるとわからないよう中庭に干しています。学校の行き帰りも必ず兄弟や年上の誰かが送り迎えをして警戒しています。

 アメリカ合衆国での成功を夢見て中米南部から北上する人々がたくさんいるのですが、その多くは密入国者であることも施設に子どもが入ってくる要因です。中米各国の国境は比較的簡単に越えやすいのですが、グァテマラとメキシコの間の警備は厳しく、時に足手まといになる子どもが国境で捨てられたり、両親とはぐれたりします。単身で密入国を計る若者もいますし、家族総出の場合は赤ちゃんを抱えているお母さんもいます。

しかし泣き声で見つかるといけない、走る時邪魔になる、そういった理由で多くの子どもが捨てられます。以前、4,5歳の子どもが国境沿いで母親に捨てられそうになったのですが、4,5歳ともなるともう十分その状況が理解できているわけで、「お母さん置いていかないで」と叫び必死で追いかけようとします。その時お母さんが何をしたかというと、自分の持っていた櫛で子どもの胸からお腹にかけて切りつけ、子どもが追いかけてこないようにしたのでした。

 密入国者が多いのには合衆国のテレビの影響も多分にあります。グァテマラでは最低限の栄養を採るのも大変な状況だというのに、一方でテレビでは「○週間でこれだけ痩せます!」というダイエット食品のCM、また美味しそうなピザやアイスクリームの画像が流れています。携帯、プレステなどのCMも流れています。グァテマラの貧しい人々はコーヒー農園などで働いていますが、時給20円という世界です。

しかもお給料のほとんどは現金支給ではなく現物支給なので、働いた対価として農園の売店で野菜などを受け取って生活しています。豊かな国の情報と貧しい現実、そのギャップが犯罪を生みます。もし私が高校生くらいの年齢だったら、新しい服も欲しいし、シューズだって欲しい、アイスクリームだって食べたいと思うでしょう。でも買うことができない、食べることができない、という現実があります。

 合衆国とグァテマラはメキシコを挟んで国境でつながっています。数日では無理ですが、毎日歩いていたらいつかはその豊かな国に辿り着くこともできるわけです。そんな数百キロ離れただけの差でこちら側に生れ落ちたがために貧しい現状にある。ほんとうにやりきれない気持ちになると思います。

 治安が悪かったので、乗っているバスが遅れて予定通りにターミナルに着かないということがありました。そのとき、夕方になって辺りが薄暗くなってもまだ家に着いていないということに恐怖を感じました。やはり暗くなってくると犯罪も増えます。夕暮れが怖い、そのような経験は生まれて初めてのことでした。盗難にあったり、物乞いされたり、人種で差別されたり、そのようなこともグァテマラに来て初めて経験しました。

 このようにお話すると悪いことばかりのようですが、グァテマラはとても魅力的な国でもあります。気候は温暖、自然も多く、マヤ文化のすばらしさも見ることができました。人々はおおらかで親切でした。職場の人たちには本当にお世話になりましたし、彼らが代々受け継いでいる伝統の民族衣装はほんとうに鮮やかで美しいものばかりでした。

 しかしながら、グァテマラで感じた政情不安や治安の悪さ、機能していない警察、女性や子どもが低く扱われているという現状から、私は法の機能について、また福祉国家とは何か、世界において日本が責任ある立場を占めるとはどのようなことか、日本人として何をすべきか、ということを強く考えるようになりました。そして現在は法律を学んでいます。この経験を生かして地域で私に何ができるのかをこれから考えてゆきたいと思っています。

 最後になりましたが、このような機会を与えてくださった各関係機関のみなさま、育てる会のみなさま、本当にありがとうございました。心より感謝申し上げ、これで帰国報告を終わりたいと思います。