現地隊員レポート             「りる」第74号より 

                                                    マラウイ   成瀬 美紀
                                                             平成29年度1次隊
                                         コミュニティ開発
   

「信頼関係と広い意味での『教育』」

 2017年度1次隊、コミュニティ開発の職種でアフリカ南部、マラウイ共和国に派遣されている成瀬美紀です。

 2017年11月にようやく任地に根を張って生活をスタートさせました。5か月がたち、見えてきたものがたくさんあります。そのうちの一つ、信頼と教育について書きます。

 圧倒的少数の外国人としてこの国の田舎に暮らしていると、日本では想像すらしなかった対人関係のバリアというものができてしまいました。「この人は、外国人からお金や物をもらおうと期待している人なのかな、それとも私個人を尊重して仲良くしてくれているのかな」とジャッジする意識のことです。

 日本にもいろいろな人がいるように、マラウイにもいろいろな人がいます。

・外国人とのふれあいが日常的な環境で育ち、公務員というハイクラスな職につき、かわいい奥さん、こども、孫に恵まれて、仕事に奔走するおちゃめなおじさん

・事務所で私が(マラウイはどうしたら発展するんだろう、)と頭を悩ませている傍、「カメラ貸して!セルフィー(自撮り)をSNSにアップしたいの」とポーズをきめ、勤務時間中に楽しそうに撮影大会をするおしゃれ女子

・村の典型的な貧困家庭に生まれ、高校中退しながらも英語を流ちょうに話し、真剣にマラウイを発展させたい!とチャレンジし続ける、しかし、実は公認の奥さんが二人いるという側面も持ち合わせた青年

・いつもスーパーの前で「マダム、マダム」とお金を求めてくる障害を持った、ぼろぼろの服を着たおじさん

・私の肌の色を見てぼったくろうとしてくる人に激しく怒ってくれ、5歳の愛らしい息子を育てながら銀行に勤める、全幅の信頼を置けるシングルマザー

・村を私が訪問するたびに「ミキー!!ひゃーー!!」と大歓迎してくれるが、絶対に「お金ちょうだい!」」あめちょうだい!」「ノートちょうだい!」などの要求は欠かさない、13歳の息子を持つ28歳母

・きれいな身なりをしていて英語もぺらぺら、お金持ち家庭の出かと思いきや両親はおらず、しかしビジネスを自分でたちあげ公務員と同じくらい稼いでいるムスリムの青年

・会うのが10回目くらいでも私の平たい顔を見るとぎゃーぎゃー泣き叫びながら逃げていくかわいい赤ちゃん

・いつも物静かで謙虚、しばらく素性不明だったものの、実はキリスト教・エホバの証人のマラウイ支部の偉い人であり、かつ夜間の警備員として働いてくれているおじさん

・自転車タクシーの運転手で、重量級のおばちゃんを後ろにのせて坂道を汗かきながら自転車をこいで30円の稼ぎを積み重ねていく、折れそうな細い腕、脚をした少年

・公務員の立場を悪用して国連含むドナーからの予算を横領し、それを糾弾されて訴追されてしまつたオフィサー

 このように様々な性別、宗教、職業、出身地、年齢、やる気、体型、考え方の人に出会いました。そしてそれぞれに信頼できる人なのかどうかジャッジしてきました。

 一度信頼できると認定した人に「お金貸して」と言われるだけで、『この人まで金目当てだったのか!?」とがっかりしたり、身構えて失礼なことを言ってしまったが実は下心のないいい人だったり、ということもしばしばです。日本人同士でも難しいのに、ましてや真逆の文化圏、経済指標の国から来た私が現地の人と信頼関係を築くというのは、本当に難しいです。

 ただし、ひとつ見えてきた法則もあります。信頼構築に必要なすべての心構えは教育されて芽生えるものだということです。ここでいう教育とは、学校教育や学位の話だけではありません。「しつけ」とか「指摘」とかそういった小さな積み重ねの意味合いが強いです。広辞苑によると、教育とは一人を教えて知能をつけること。人間に他から意図をもって働きかけ、望ましい姿に変化させ、価値を実現する活動。」と定義されています。

 例えば、マラウイの人は恥ずかしげもなく鼻をぼりぼりとほじります。日本人としてはかなり面食らう行動ですが、こちらでは誰もがそうしています。しかし時たま、ほじらない人もいます。生物としては、鼻にたまったゴミをはき出すという当然の行為ですが、衛生的によくないから、ただ見た目がよくないから、などと理由付けはどうあれ、人に指摘・教育されたことがあるからそうしないのでしょう。

 同じように、(次元は違いますが)「外国人にお金をねだるべきではない」というのも誰かに指摘されたり、そういった論調の話を読んだり聞いたりしたことがあるからだと思います。教育をしっかりと受けた人は、不必要に外国人に依存したり、物をねだったりすることはありません。一方で、外国人(黒人でない人)を見ると必ず金や物を期待する人もいます。それもある種の教育で、親が子どもに「外国人が来たからお菓子をねだっておいで」と言っているのをよく耳にします。

 こういった正しくない教育は、最初に述べたように、人と人との信頼関係を希薄にするものだなと痛感しています。現地の人の、ものをねだる態度、いわゆる「援助慣れ」した態度に愛想をつかしている外国人をたくさん見てきました。個人と個人の関係の悪化は、ひいては国と国の関係まで悪くすることもあるのではと思います。

 実のところ、外国の援助がなくなるとマラウイは国家予算の約40%を失うことになります。そうすれば最も困ることになるのはこの国の人たち、中でも最も貧しく教育を受けていない、日頃お金やものをねだってくる人たち自身なのです。

 幸い、私は今そのような草の根レベルの人たちとともに活動を進めており、直接彼らにリーチできる環境で暮らしています。私がマラウイですべきことのひとつは、外国の援助は当たり前ではないし、自立なしには本当の開発や発展はないのだということを何度も何度も繰り返し人々に伝え、教育することだと考えています。2年間の任期で成し遂げられることと言えば、そこまで大きくはないかもしれませんが、私の前任者から引き継いだグループの人たちは外からの援助を待つだけでなく、自分たちで行動を起こすマインドを既に持っています。それに倣って、私も人々の経済的、精神的な自立を促せるよう活動を展開していきます。


マラウイになじむきっかけになってくれた友人

ゴミを使ったエコれんがを作る村人

プライベートで欠かせない現地の友人

みんなで作るとあっという間にたくさんできます