現地隊員レポート             「りる」第63号より 

                                                    マラウイ     S.S.
                                                             平成24年度3次隊
                                         看護師
    

 

 私はアフリカのマラウイで看護師として活動を行っている。マラウイでの生活は1年と7か月が経過した。諸事情により任地変更(2014年4月)を行ったため2つの地域で活動し暮らす経験をしている。現在の生活環境は比較的停電は少ないものの水道から水がでないため井戸で水をくみ生活をしているが、前任地では水道水は鍋に入れると鍋底が見えないほどの泥水が出ていたので井戸の透きとおった水には幸せを感じている。

日用品や野菜などの食材は最低限そろえられるため生活環境には恵まれている。また天井からヤモリやネズミが落ちてきても落ち着いていられる、生きた鶏を自分でさばく、七輪に炭を入れ素早く火をつけるなど日本では使わない生活術を習得し、家族からは「たくましくなりすぎではないか!?」という声があがっている。

 それでは私の活動を紹介しようと思う。青年海外協力隊に参加し看護師として活動を行っていると言うと、医療の現場で患者と向き合い看護を行うというシーンを想像する人が多いが私の活動はこの通りではない。

 マラウイの厚生労働省にあたる保健省はJICA支援のもと全国の医療機関への5S−KAIZEN−TQM(5Sと言われる整理、整頓、清掃、清潔、躾・改善を通じた医療品質の向上活動)の導入を推進しており、配属先であるンチェウ県病院も2013年から活動に取り組んでいる。現在の目標は5S活動を通して職場環境を整え業務の効率化につなげ、最終的には患者満足度の向上を行うというものである。

なぜ整理整頓などの活動が必要なのかを日本の病院を想像すると考えにくいかもしれないが、ここマラウイでは片付けるという習慣やしつけがあまりない。隙間があれば目の前にある物を全て詰め込む・積み重ねることが彼らの整理整頓である。そのため各部署では想像を絶する職場環境を目にすることがある。

そんな状況のなか必要な物がどこにあるのか把握できておらず探し回ることは日常茶飯事である。医療の現場では1分2分が生死の分かれ目になることもあるため職場環境の改善が必要とされている。

 まず初めに活動として取り組んでいるのは5S活動の基礎知識の普及である。5Sという言葉の意味から実際にどう取り組めば良いのかを事例を盛り込み勉強会を実施している。マラウイの習慣として何かを始める場合は勉強会を一番に行うというものがある。

段階として勉強会の実施、事例をもとに真似て実施する、会議をもって評価する、評価を現場に反映するという具合である。そのため勉強会は欠かせないものであるが、簡単には前にすすめない出来事がある。例えば説明時に矢印を書いたとする。そうすると「この矢は何だ!?」という質問があり勉強会が一時中断することがある。

この背景にはTV観賞や読書をする機会が少なく、矢印や吹き出しを目にする経験が少ないからではないかと言われている。またマラウイの医療機関では資金不足に悩まされており、患者のための給食の食材が購入できない、村の巡回診療に行きたくても車のガソリンが買えずに巡回に行けないということはよくある話である。

そのため職場環境を整えるための資金の優先順位は高くない。このような背景から新たに何かを購入して職場環境を整備・改善していくことは難しいことから、ボランティアには今ある物を創意工夫することで職場環境を整えていくことが求められている。日本人には「もったいない・工夫する」という精神があるため、いろいろとアイディアは浮かぶもののこれまたそう簡単には前に進めない現状がある。

世界最貧国のひとつと言われるマラウイ、想像以上に物がなくハサミ、ペン、コピー用紙、セロテープなどは貴重品であり、手に入らないことも多い。それゆえ盗まれないようにするため、鍵のかかる場所に文房具が保管されていることも珍しくない。その他、ダンボール箱も捨てずに職員が持ち帰り自宅で使用したり、空箱を売る副業をしていたりするため思うように活動ができないことも多い。

 このような状況の中で活動を展開していくことが私の任務であるが、種類別に物を分別し入れた箱が数日後に箱だけ持ち去られていたり、掲示物を貼るために使った画鋲が一コずつ無くなっていくなどの出来事があり気持ちが落ち込むこともある。しかし一部職員は職場の問題点を認識しており5S活動の必要性を感じ、「5Sをもっと知りたい。職場を変えたい。」という活動に意欲的な声も聞かれる。

また勉強会で紹介した事例を自ら職場に取り入れ、「さらに職場を改善したいけどどうすればいい?」など助言を求められることもある。そのような職員の声や行動に支えられ日々の活動が行えている。今後残り少ない任期となったが職員の要望にできる範囲で応えられるように活動していきたい。

特に重要なことは「今後も継続できる」「活動はお金がなくてもできる」ということであり、それを共に考えながら日本生まれの「5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)」を根付かせたいと考えている。

〈活動事例画像〉
(1)書類庫
書類庫には天井に届くほど書類が積み重ねられドアが開かない状況であった。床にはゴキブリや虫が繁殖し、雨漏りで濡れた書類にはカビが生えとても不衛生な環境であった。何とか隙間から書類を出し整理整頓を行った結果、見違えるほどスッキリとした書類庫になった。

(2)薬品を入れてある台車
薬品を入れている台車をあけてみると薬品が無造作に入れられている状況であった。どの薬品がどこにあるのか把握できず、薬品を探すところから作業が始まる状況であった。そのため必要な物を整理整頓し薬品を取り出しやすくした。