現地隊員レポート             「りる」第50号より 

                                                    マレーシア  M.S.
                                                             平成20年度1次隊
                                         作業療法士
    

 

『マレーシア便り』
マレーシアに赴任して、ちょうど1年、折り返し地点を迎えたところで、はじめて「りる」に寄稿します。「りる」の語源、「知り、行動する」の通り、何も分からず不安いっぱいだったスタート地点から、少しずつ任地の状況を知り、それを基に思いついたことを少しずつ行動に移してみて、さらにいろんな発見があって、という繰り返しの毎日です。そんな生活のこと、活動のことを少しだけ、紹介させてもらいますね。

 まずは生活編。私の任地はマレー半島の北東部にあるクランタン州です。クランタン州の特徴といえば、イスラム教徒が多いことです。多民族国家のマレーシアですが、クランタン州の人口の90%以上がマレー系、つまりイスラム教徒です。

女性は皆、「トドン」と呼ばれる布を頭にかぶっており、多くがバジュクロンという民族衣装を着ています。1日5回のお祈り、1年に1か月の断食を始め、宗教を意識することは多いです。

私の生活に最も影響しているのは、お酒や、豚肉が手に入りにくいことです。ハラル(イスラム教の教義にかなったもの)な食べ物しか食べないので、お土産に食べ物を選んだり、料理を振舞う時にも配慮が必要です。

 マレーシアの人は、食べることが大好きです。泊まりがけの研修というのが時々あるのですが、そのような時には、3食の食事に加えて朝と昼と夜の3回の「おやつ」の時間があります。

特にクランタン料理は甘いことで有名で、甘い料理と伝統菓子、そして甘い飲み物(練乳入りの紅茶やコーヒー、ミロが主流)が多いです。もちろん料理は唐辛子を多く使うのですが、辛さに加えて甘いのです。甘い物ばかりの食事に、健康面の不安はありますが、すっかり慣れてしまいました。

さらに今は果物がおいしい季節で、マンゴーやマンゴスチン、そしてドリアンが山積みで売られています。マレーシア、食生活が非常に豊かです。


果物市場にて

 次に活動編。クランタン州の社会福祉局に作業療法士として配属され、CBR(地域に根差したリハビリテーション)という取り組みに関わっています。具体的には、29か所ある州内のCBRセンターを巡回しています。ソーシャルワーカーと青少年活動の2人の隊員と協力して行っています。


巡回しているCBRセンターの一つ

「私の仕事はこれ」と決められたことがあるわけではなく、必要だと思うこと、自分にできそうなことをやっていくという自由度の高さが、難しくもあり、楽しくもあります。幸い、マレーシアには、多くのボランティア、フィールド調整員や専門家もいて、相談や勉強をしやすい環境にありますので、日本で働いていた時には知らなかった、様々な側面から、障害をもった方の支援というものを考えさせてもらっています。そしてやってみたいと思ったことをすぐに行動に移しやすい環境です。任地の人の役に立てているのかと考えだすと悩みはつきませんが、少なくとも自分にとっては、ここで活動させてもらえて良かったなと、心の底から思います。

 日々の活動では、障害児者が通ってくるCBRセンターでの活動をワーカーさんと一緒に考えて行ったり、個別の援助方法についてアドバイスしたりしています。

例えば、販売活動につながるようなハンディクラフトを提案したり、脳性まひ児用のイスを作ったりしています。このような活動は、一瞬達成感と自分も何かできたという安心感を与えてくれます。でもその後すぐに、「本当にこれは役に立っているのか?」「自己満足だけなのでは?」という疑問が沸いてきます。いつか忘れ去られ、結局何も残らないのでは、と不安にもなります。これは最近までの私の悩みでした。しかし最近は、自分行動することで、何かを感じたり考えたりするきっかけを与えられればいい、そう考えられるようになりました。

残り1年で、今一番目指したい「活動の成果」は、障害をもっている当事者、支援者、社会、そして自分も含めて、「『障害』に対する考え方が変わってきた」と実感できることです。目に見えにくい成果ではありますが、先輩隊員の行ってきた活動の成果として、その「変化」は見え始めています。これがもっともっと広がっていくような活動を、これから行っていきたいと思います。


市場の様子

 あと1年、もっともっとマレーシアのことを「知り」、思いつく限り「行動する」、そしてまた私自身の考え方も変わっていくと思います。そんな自分に流されながら、マレーシアでの生活を楽しみたいと思っています。