現地隊員レポート             「りる」第64号より 

                                                    ミクロネシア     大西 結加
                                                             平成26年度1次隊
                                         小学校教育
    

『真夏のメリークリスマス』

 日焼けした顔にサンタの帽子。扇風機と並ぶクリスマスツリー。初めて過ごした暑いクリスマス!今回は、年末年始の体験と活動の様子についてお伝えします。

 私は首都のあるポンペイ州に住んでいます。こちらでは十二月に入ったとたん、町中にクリスマスムードが漂い、人々がうきうきし始めました。キリスト教徒である国民にとって、クリスマスは一年で一番大切な行事なのです。
モミの木ならぬノニの木ツリー。

 私の配属先、コロニア小学校では、子どもたちのパーティと教職員のパーティがありました。まず、各学級で行われた子どもたちのパーティ。どの教室にも、工夫を凝らした飾りがいっぱい。プレゼントを手に、うれしそうに登校してくる子どもたち。次から次へと手料理を届けに来る保護者たち。中には、そのまま参加しているお母さんも。私が参加した五年生の学級では、お祈りをして、歌を歌って、ごちそうを食べて、プレゼント交換をして、楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。その二日後、教職員のパーティ。
かわいいサンタ姉弟。

 今年は女性が幹事で、出し物として一か月前から合唱を練習しました。一曲はポンペイ語のクリスマスソング、もう一曲は私が紹介した「きよしこの夜」です。メロディは知っていますし、歌詞もすぐに覚えてくれました。ポンペイ人は教会で日常的に歌っているので、歌声がとてもきれいです。今まで私が聞いた中で最高の「きよしこの夜」でした。男性たちもうっとり。歌った後はやっぱりごちそうを食べて、女性から男性にギフトを配りました。来年は男性が幹事だそうです。

 次に年越しについてです。私はホームステイをしているので、ホストファミリーと一緒に教会で新年を迎えました。時間に寛容なこちらの人々は、カウントダウンなどしません。時計が示す時刻もそれぞれずれているので、バラバラと歓声が上がり、家族や教会の仲間と握手をしたりバグをしたりしました。

その後私たちは、元日のある風習を見るため、車で町中を回りました。その風習とは、「ドラム缶叩き」です!午前0時を回ったとたん、あちらこちらで若者や子どもたちが道に出てきて、ドラム缶や鉄のかたまりを無我夢中で叩き始めたのです。それだけではありません。おもちゃの笛をふいたり、叫んだり、通りすがる人や車にバケツの水をぶっかけたり。
移動式ドラム缶太鼓。

地区によっては、男性が女装して歩くのが名物になっていました。さらに、これらの行為は車上でも。車の荷台にあふれんばかりの人を乗せて(これは合法)、町中をパレード。ドラム缶もクラクションも鳴らしっぱなし。荷台がない普通車も、屋根に人を乗せています(違法)。驚いたことに、元日だけは警察の取り締まりがないとのこと。耳をふさぐほどうるさく、眠れないほどのこの騒ぎは、一月二日を迎える寸前まで続いたのでした。
見て!ぼくだって叩けるよ。

 普段は穏やかでのんびりとしたポンペイ人。なので、初めて見る彼らの狂喜乱舞ぶりには圧倒されました。もしかすると、普段静かに暮らしている分たまった心のエネルギーが、一年に一度盛大に放出されるのかもしれません。

 ところで、年末年始にうれしかったことがあります。それは、野菜と卵料理を食べる機会が多かったことです。こちらでは野菜と卵のほとんどが輸入品で、高級なうえ、船が遅れると店から消えてしまうこともあります。普段、ホームステイ先ではほとんど食べられません。つまりごちそうといえば野菜と卵。親戚の集まりで「ベジタリアンなの?」と聞かれるほど、ここぞとばかりに野菜をいただきました。

 さて、ここからは活動についてご報告します。私は、町の中心部に位置する大規模小学校で、児童の計算力向上・教師の算数指導力向上に取り組んでいます。授業にみられる課題として、

(1) 教師の一方的な指導になりがちで、子ども自身が考えたり、表現したりする場面が少ない。
(2) 学習活動が子どもの思考過程に沿っていない。
(3) 個に応じた支援がない。

などが挙げられます。その結果、子どもたちに基礎的計算能力が十分身に付いていません。また、ひたすら計算式を解くという授業スタイルで、身の回りの課題解決に結びつかないことも問題です。

例えば、「3×3」なら「9」と答えられるけれど、「三つのかごにバナナが三本ずつあると全部で何本」の問いには答えられない子が多くいます。これらの課題を先生方も意識しているけれど、彼らが受けてきた教育も似たようなものだったので、改善のためのアイディアがないというのが現状です。

 そこでまず、私が指導者となって、授業づくり・実践を行っています。児童へ直接指導ができるのと同時に、教師に対する提案にもなるからです。ただ、学習環境も児童の実態も日本とは異なるので、自分の知識や経験をそのまま伝えるのではなく、先生方の意見を聞いたり、専門知識をもつ教育局のボランティアに助言をもらったりして、現地に適した指導法を模索しています。
365は100を3こ、10を6こ・・・。

 活動の方向性の決め手になったのは、十月に行われた、ニュージーランド人講師による算数指導法の研修です。管理職や教育局の職員に交じって参加させてもらい、大変勉強になりました。この研修で最も強調されたのは、「具体物操作」を取り入れることでした。そしてブロックや巻尺など三十種類もの教具が無償配布されたのです。

 この研修を受けて、四年生の授業実践で具体物の活用をいろいろと試みました。例えば、

(1) 位取り表の上で一・十・百のブロックを操作して二けた×一けたのかけ算をする。
(2) ブロックを1・10・100のカードに置き換えて計算をする。
(3) 表に1m・裏に100pと書かれたカードを並べてめくり、mからpへの換算をする 。

などです。また、三年生と五年生を対象に、基礎的な内容の補習も行っています。例えば、

(1) 数直線上におはじきを置いて、5、10、15・・・や2、4、6・・・といろいろな数え方をする。
(2) ブロックと矢印力ードを使って三けたの数を表す。
(3) 1を百等分したます目をぬって小数を表す。
などです。

 授業は拙い英語で行いますが、一生懸命聞き取ろうとする子どもたちやポンペイ語に訳してくれる先生方に助けられています。何よりうれしいのは、子どもたちの「わかった!」「おもしろい!」の笑顔と、先生方の「もっと教えて」「私ならこうする」という熱心な声です。それらを励みに、さらに活動を充実させていきたいです。うまくいかなくて落ち込むこともあるけれど、私は今日もケーライル(元気)です!
手作り教具で少数の指導。