成長する島          「りる」第18号より

     モルディブ            Y.S.

                     平成9年度2次隊

                     建築施工


 日本では以前よりもモルディブという国の名前を聞<事が多くなったと思います。それは地球温暖化による海面上昇でまっ先に沈む国のひとつであるという事でマスコミ等の話題によくあがった為だと思います。実際に信じられないほど美しく豊かな自然に囲まれたこの国は環境問題において犠牲となる象徴的存在として論じられるのに十分な環境を持っています。

  コーランを学ぶ少女達

 私自身もモルディブに来るにあたって、活動を通して地球温暖化をはじめ環境と開発に関する問題を深く考える機会があるだろうと考えていました。

 しかし、この国で生活を始めてすぐに地球温暖化はここに住む人々にとって全く身近な問題ではないという事が解りました、海と共に生活をしているとはいえ、50年後に沈むかもしれないといった、そんな先の話に恐々としているほどモルディブ人は暇ではありません。むしろ今日の海の様子の方が大切なのです。大統領は国連で地球温暖化について演説しましたが、ここで生活をするのにこの問題は全く身近な問題ではないのです。

 生活に身近な環境でいうとゴミの問題があります。出張にボートで行くとモルディブ人は空き缶やバナナの皮といったゴミを平気で海に投げ捨てます。僕が捨てないでいると、「環境の為か?」と聞いてきます。モルディブは学校で環境教育があるほど環境に対して無知どころかよく知っているのです。

それなのに何故捨てるのだと聞くと、この広い海でこれぐらいはちっぽけなものだと言います。少々呆れながらも明るい太陽のせいか私自身もそんな気にさせられてくるので不思議なものです。実際にここの海はいつまでも永遠に続くのではないかと思うほど青く広大です。

 では、毎月大量のゴミが出る首都マーレ島はどうしているかというと、約20分ほど離れたティラフシというゴミの為だけの島に運ばれ埋めたてられます。一度だけ機会があり、私はその島に上陸をするが出来ました。

620メートル×150メートルの島にゴミを大量に載せたダンプがカーボートでそのまま運ばれ島の周辺部に捨てられます。モルディブの青く透き通った海にダンプから大量のゴミが廃棄される風景は、その対比故にとてもシュールなものでした。ゴミの上にはすぐに砂が埋めたてられる為に臭いも意外に少なくゴミが覆い隠された島はゴミの島のイメージにはやや遠いものでした。

  ゴミの島ティラフシ 埋立地にゴミが廃棄される

 私の活動に身近なところでいえば、地方島に港を作る為の測量が今の私の活動の中心であるので、人の手のほとんど入っていないきれいな海を持った島に出張に行く事になります。

珊瑚に見え隠れするブルーやオレンジのかわいい魚を持つ青い海に腰までつかり仕事をすると、時おりその景色にハッとするような驚きさえ感じる事があります。図面を描く時も、そんな海に出会った時はすみの方に密かに見てきた魚の絵を描いたりしています。

港が出来る迄の地方島は船が近付きにくく、浅瀬に来ると海につかって上陸するか小さな手こぎボートに乗り換えて上陸する等、非常に不便な生活を強いられる事になります。港が出来る事は島の人間にとって非常に大きな恵みをもたらす事になります。

しかし港を作る事は、同時に大きな重機で港や進入航路を掘り海岸線を埋め立てていく事になります。それは、すなわちかわいい魚達の住処(すみか)を奪い、砂をまき上げ周辺の珊瑚を殺す事になります。私の活動も、それはそのまま環境保護と開発の大きな矛盾を抱えているのです。

  巨大な重機による港づくり 子供たちが見つめている

 活動を通してボートや飛行機でモルディブのあちらこちらの島や海を見ていると、私達をとりまく自然に対し新鮮な驚きを感じる事があります。例えば、通り過ぎる大小様々な島を眺めていると、何もない海から島が成長していく過程が目に見えて感じられるように思う事があるのです。

深く青く海の中で様々な色や形をした珊瑚が、産まれては死に、また産まれては死に、死骸の上にその体を積み重ね少しずつ少しずつ空を目指します。

永遠にも思われる時間をかけやっと海上に顔を出し、またそれからさらに長い時間をかけて、珊瑚は成長をしてはその体を砂に変えて砂浜を形づくっていきます。最初は波に隠れるような島とも呼べない砂浜はやがて小さな小さな砂浜だけの島になります。

そこに近くの島から小さな、本当に小さな偶然を重ねてやしの実が流れつきます。やしの実は力強く地に根を張り、空に葉を大きく広げます。恵みの光に満ちた空の下でやしの木もまた仲間をどんどん増やし、その体はやがて土に還っていきます。

  リゾート地の測量風景

その間も珊瑚は島を広げ、風や鳥に運ばれた様々な植物達が緑を形づくり、やっと島と呼ぶにふさわしい表情を見せます。そこからまた人が住めるだけの大きさの島になるには、気が遠くなるほどの生命の積み重ねが繰り返されていきます。

モルディブで生活をし、様々な島を巡り、また空からその姿を眺める事は地球の歴史を目の当たりにし、また、自分もその中のひとつの要素として組み込まれているような気さえします。だからこそ私達は豊かな自然に手を加える時、大きな悲しみとやさしさを持って対するべきではないでしょうか。