帰国隊員報告    「りる」第44号より

                                                    ニカラグア    A.F.
                                                             平成16年度3次隊
                                    
青少年活動                                                                


【ニカラグア概要】

 平成17年4月から平成19年4月までニカラグアで県保健局に赴任し、青少年活動として活動してきました。
報告するF隊員OG

 ニカラグアは中米に位置し、面積は日本の約3分の1の大きさです。人口は約514万人、宗教はカトリック教徒が主で、人種は白人系と先住民の混血であるメスティソが約70%とほとんどをしめており、カリブ海側には黒人や先住民族が住んでいます。

主要産業は農牧でコーヒー、牛肉、ピーナッツ、サトウキビ、とうもろこし、米、バナナなどを生産しており、日本へもコーヒー、牛肉、ごまなどを輸出しています。

 気候は雨季と乾季が6ヶ月ずつ分かれており、年中暑い日が続きます。山間部にいけば涼しいところもありますが、私の住んでいたグラナダはニカラグアの中でも特に暑く、日中に外を歩くとそれだけで疲れてしまうことも多々ありました。
  グラナダ街の様子

 1978年にソモサ独裁政権に対する革命がサンディニスタ政権により起こり、それ以降1990年まで内戦が続いていました。またニカラグアは地震、台風などの自然災害にもみまわれたため、復興がなかなか進まず、内戦や地震の爪あとを感じさせる建物が今でも残っています。

現在は少しずつ経済発展をしていますが、ニカラグアは中米でハイチに次ぐ第2の最貧国であり、人々はまだまだ貧しい生活を強いられています。

電気、水道は比較的安定していますが、特に2006年は電力不足に陥り、予告なしに停電、断水が起こることが度々ありました。停電、断水を通じて電気、そして特に水のありがたさを身にしみて感じました。

【活動について】

 私の配属先はグラナダ県保健事務局で、要請内容は青少年に対するリプロダクティブヘルスをJICAのプロジェクトと協力して勧めることでした。ニカラグアでは若年妊娠がとても多く、13、4歳の若者が妊娠し、出産することも稀ではありません。また、男性優位のマチスモの文化であるため、シングルマザーが非常に多いことも特徴です。

若年妊娠はまだ身体が成熟していないため、妊産婦死亡率や疾病率の増加に繋がっています。また学業の断念、社会的自立の妨げにもなっていることも事実です。これらは貧困の直接的な原因であるともいえます。

 そのため、保健省では市や町の保健所で青少年クラブを持ち、そこで思春期リプロダクティブヘルスを行うことを事業の一つとして定めています。それに基づき、カウンターパートと共に、青少年クラブのたちあげ、性教育やレクリエーションを通してクラブ活動の実施、青少年リーダーの育成などの活動を目標として行ってきました。
  小学校工作教室の様子

 1年目は市の保健局に勤務し、試行錯誤の日々を送ってきました。赴任と同時期に開始される予定であったJICAプロジェクトが遅れ、開始しない、そのこともあり配属先やカウンターパートが思春期リプロに対して積極的ではない、など様々な問題点がありました。配属先で青年団グループを作り、何度か活動し性教育も行ったが、配属先の協力が得られずどれも数回で終わってしまいました。

また私も時間に余裕があったので、配属先の市保健局だけでなく、NGOや学校で工作や簡単な健康教育の授業を行ってきました。また、性教育を自分たちで広めていけるように、マニュアル作りを同じ保健局に配属されていた隊員他3名と協力して作成しました。この1年目の活動は正に暗中模索でしたが、決して無駄ではなかったと思います。

この頃に築いたNGOとの関係は、2年目に配属先である保健省と青少年クラブを行っていく上でとても役立ちました。青少年クラブを地域で行っていくためには保健省と他機関が連携することは非常に大事なことです。この頃に人と人との繋がりができていたので、2年目に活動する時、とてもスムーズに進んだと思っています。

 2年目は県保健事務局に移動し活動しました。JICAのプロジェクトが到着したこともあり、配属先も非常に協力的になったので仕事がとてもやりやすくなりました。ようやく配属先、カウンターパートと同じ目標を共有し、それに向かって一緒に取り組むことができるようになったのです。

 この時点ではほとんどの保健局が青少年クラブを持っていませんでした。そのため、まずは同僚と共に青少年クラブの立ち上げを行いました。グラナダ県には4つの市があり、その中に大きな保健局が5つ、更にその下に小さな保健ポストがあります。

これら全ての保健局に青少年クラブを設立することが最終的な目標ですが、まずは青少年クラブに対してやる気のある看護師がいる、立地的にJOCVボランティアと同僚が見て回れる範囲にある、などといった条件とあう保健局に青少年クラブの立ち上げを行いました。

それと同時に各保健局の思春期担当看護師に対する思春期リプロの研修と青少年クラブヘの協力要請を行いました。各保健局や担当看護師の力量によってばらつきはありましたが、少しずつ青少年クラブが設立され、定期的にクラブが行われるようになってきました。
  青少年リーダーによる性教育

 後半には青少年リーダーを育成するプロジェクトが始まりました。これは、保健省がニカラ
グア全域で推し進めたプロジェクトであったので、配属先である県保健事務局とJICAプロジェクトと協力して行いました。このプロジェクトは、まずは思春期担当看護師が研修を受け、性教育のノウハウをつける。

次にその看護師が青少年リーダーに対して性教育を行う。その次に青少年リーダーが自分の地域で他の青少年に対して性教育を行う、といったものでした。

 その中での私の役割は隊員レベルでの活動、草の根レベルでの活動です。ニカラグアにはたくさんの援助機関が入り、ある一部の看護師や地域リーダー、青少年リーダーに研修を行うことはよくあります。しかし、研修を受け知識を持った人たちが更にそのほかの人たちに自分の知識を伝えることができず、せっかくの良い研修が無意味なものに終わってしまうことに何度も遭遇しました。

そのような状態にならないよう、青少年リーダーに対する研修で終わらず、その青少年リーダーをしっかりサポートし、草の根レベルまでこのプロジェクトが浸透していくよう支援していきました。具体的には、講義方法やレクリエーションの提案、教材作りを青少年リーダーと一緒に行い、また看護師や他青少年との連絡や調整も行ってきました。

 青少年リーダーはとても責任感があり、やる気のある子がほとんどでした。また、彼ら自身も講義をやることによって、受身でなく積極的に学び、少しずつ自信をつけ成長していく姿が目に見えてわかりました。

彼ら自身は若年妊娠や性感染症を自分たちの問題として捉えています。そしてそれらを減らしていくためには自分たちが同世代に伝えていかなくてはいけない、という使命感を持っていました。そのような彼らの姿を見ているととても嬉しく、そして非常に感心させられました。

ニカラグアでは若年妊娠、性感染症を大きな問題として捉え、少しずつですが情報を公開し性教育も浸透していっています。それと比べて日本は閉鎖的で、この点はニカラグアに後れをとっているという印象をもちました。

 このプロジェクトは更に広がり、教育省やNGOと連携して、先生に対して研修を行ったり、青少年リーダーがNGOで講義を行なったり、などの活動も行われました。また、ラジオ局からも依頼があり、度々青少年リーダーや同僚が出演し性教育についての講義を行いました。

 これらの活動は全て引き継がれ、現在短期隊員が1名派遣され活動しています。平成19年9月には後任隊員が3名派遣され、引き続きこの活動を行っていく予定です。

 後半になり、青少年グループ活動が積極的に広まってきましたが、問題点がまだ多いのも事実です。まずは看護師のモチベーションの問題。青少年グループは学校の関係もあり主に土日に行われます。そのため看護師は休日に出勤せざるを得なくなるのですが、これまでは代休と給料が保障されていませんでした。

そのため各看護師のやる気に任せられていました。その点を県保健局長に申し出ると、改善してくれることを約束してくれ、各市保健局長に対して思春期担当看護師の代休確保、思春期層への取り組みの強化などの通達を出してくれました。また看護師に対する評価もありませんでした。そのため月初めに活動の予定を、月末に報告書の提出を求めました。

そして予定通り活動が実施されているか訪問し、評価を行いました。しかし、この点はまだ不十分で予定表や報告書が未提出の保健所もまだありました。またJICAプロジェクトは4年の予定であるので、後3年ほどで終了します。その後、ニカラグア人の手で思春期リプロダクティブヘルスを続けていってくれればいいのですが、予算と政策が不安定なニカラグア、これまでの基盤が全て崩れてしまわないかと危惧しています。

そのためにも、県保健局長が理解を示してくれたことは大きなことであったと思います。一人ひとりの医療従事者が思春期の問題を真摯に受け止め、持続の重要性を見出してもらえるようにすることが今後の隊員に期待されることであり、私たち初代隊員はまずその足がかりを作ることができたのではないかと思っています。
  講義を聴く少年

【配属先以外での活動】

 残り任期3ヶ月ほどの時に自分の任地で日本文化紹介を行いました。外国に住むことで日本という国と、また私自身が日本人であるということを強く意識しました。そしてニカラグア人も日本についてとても興味を持っているが、中国や韓国など他アジア諸国と混同してよく知らないという状態であったので、日本のことをもっとニカラグア人に知ってもらおうと思い、この行事を企画し実行しました。

室内では縁日、茶道、折り紙ブースを設け、舞台では空手やソーラン節、剣道を行い当日は大盛況のうちに終わりました。

 この企画を計画し実行するにあたり、配属先以外の機関や人とも関わることができました。そしてたくさんのニカラグア人や日本人が協力してくれました。この日本文化紹介を通して協力することの素晴らしさと、企画遂行の難しさや楽しさを実感し、とても充実したものとなりました。

【活動を終えて】

 ニカラグアでの2年間は本当にあっという間でした。私が行ったこと、できたことは微々足るものでしかなかったと思いますが、私自身はニカラグアでの生活、ニカラグア人との交流を通して、本当にたくさんのことを学ばせてもらいました。

文化、習慣、価値観の違う国で、現地の人と一緒に仕事をすることは初めとても大変でした。苛立ち、憤りを感じ、戸惑うことが多かったのも事実です。頭では分かっていても本当の意味で彼らの価値観を理解していなかったのだと思います。

しかし、徐々に慣れるに従って私もコミュニケーションをとるように努力しました。その結果、相手も私を理解してくれ、私も相手を理解できお互いに歩み寄って仕事をすることができるようになりました。理解、協調するうえでコミュニケーションをとることは本当に大切なことだと思いました。

 また、ニカラグア人は貧しくても優しい人が多く、屈託のない笑顔で笑いかけてくれます。家族の絆も強く、またその中に他人の私も快く受け入れてくれました。物やお金を持っている人は本当に少ないです。それでも幸せそうでした。豊かさとは何なのかを考えさせられました。喜怒哀楽に富み自分自身が成長できた2年間でした。

これらの貴重な経験ができたのも、育てる会を始め、家族や友人が日本でしっかりと支えてくれていたおかげだととても感謝しています。今後はこの貴重な経験を通して学んだことを多くの人に知ってもらえるよう、日本で貢献できればと思っています。

 最後になりましたが、香川県協力隊を育てる会の皆様から、活動中、文房具やカレンダーなど様々な物を贈っていただきどうもありがとうございました。特にお守りや、カレンダーの綺麗な景色は日本独自の物であり、ニカラグアの人に紹介するのにも非常に役立ち重宝しました。この場を借りて、改めて厚く御礼申し上げます。