MlSSlON:逆ルービックキューブを完成せよ!!

香川県 三本松高等学校 2年 渡辺 奈菜
長町 亜紀
林  史乃
坂東香代子
渡辺  光

                    

  こんにちは!今日はみなさんに、私たちの友だちを紹介します。

  彼女の名前は岩永佑子さん。シンガポール生まれのアメリカ育ちで、現在オレゴン州の高校に在籍中です。毎年夏休みに、ご両親の故郷である香川を訪れ、日本の高校生活を体験しています。2年前に私たちの41番目のクラスメートになりました。

  流暢な英語を話す彼女は私たちのあこがれで、滞在中は、「佑子ちゃん、英語うまいなぁ。」という言葉がクラスのあちこちで聞かれました。
  しかし、この夏、多民族主義を掲げているオーストラリアでのホームステイを終えてみて、「私たちのこの発言はおかしい。」ということにようやく気づいたのです。

  岩永さんはいわゆるバイリンガルです。ご両親の方針で、家庭では日本語を使っているそうですが、生活言語は生まれてからずっと英語です。つまり英語のネイティブスピーカーというわけです。日本語のネイティブスピーカーである私たちが、「日本語うまいなぁ。」と感心されたことは一度もません。

  私たちは自分たちの発言に影響を与えたものが「ステレオタイプ」であることに気づきました。私たちは、岩永さんだけでなく、国内外の友だちともっと理解し合うために、「ステレオタイプ」について研究することにしました。

  ところで、「ステレオタイプ」を広辞苑で引いてみると、「型にはまった画一的なイメージ」、また、「固定観念」は、「絶えず意識を支配し、それによって主として行動が決定されるような観念」とあります。
  私たちは、クラスメートに協力してもらい、私たちが持っているステレオタイプや、それに関する経験を調査しました。

  まずは、「医者」や「外国人」などの言葉に対して、思い浮がぶイメージを述べてもらいました。その結果、私たちはかなり画一化されたイメージを持っていることが分かりました。また、私たちが持っている「理想像」というものは、ステレオタイプと密接な関係にあると考えられます。

  ステレオタイプの原因について意見を聞いたところ、一番指摘の多かったものは「メディア」でした。私たちはドラマなどの影響をかなり受けているものと思われます。次いで、「経験」、「環境」が挙げられました。

  私たちがステレオタイプの影響を受けてしまう原因は、「グループとして考える方が分かりやすい」「周りとあわせることで安心する」といった「集団意識」に関するものと、「マスメディアや大人から植え付けられている」「日本は型にはめたがる社会」といった「環境」に関するものの大きく二つに分けられました。

  また、「私たちの多くは、与えられたイメージの間違いに気づく力もなければ、そのラベルをはがして未知のものと向き合う勇気もない。商品にラベルがなければ誰も不安で買わないように。」という興味深い意見もありました。

  私たちはクラスメートに、ステレオタイプに関する経験を聞いてみました。
●ホストファミリーが決まったとき、白人でないことを知って「嫌だな。」と思ってしまった。
●語学学校の授業中、先生が「韓国人は〜だから。」という発言をしたことに腹を立てた韓国人留学生は教室を出ていった。
●ホストマザーが、「アボリジニーには近づくな、お金を盗られる。」と言った。

ホームステイ中の経験以外には
●父に、「ALTは何で日本語話せるん?」と聞かれた。外国人は日本語を話せないと思っているのか・・・。

  さらに私たちは、世界の友だちや留学生の意見も聞いてみることにしました。協力してくれたのは、オーストラリアをはじめ8カ国の人たちです。

  私たちがまず知りたかったのは、「他の国ではステレオタイプに関する授業があるか。」ということです。
  私たちは「人権」の授業で「ステレオタイプ」という言葉を学びました。オーストラリア、ニュージーランド、イギリスでは、「高校の社会科、大学では心理学、哲学の授業で学んだ。内容は、人種差別や性差別に関わる問題。」ということでした。

  こんな忠告をしてくれた友だちがいます。「私はこの国の代表者ではないからね。」私たちは、自らがステレオタイプを生み出さないよう注意しつつ、意見交換を続けました。

  次に私たちは、ステレオタイプに関する経験を彼らにも聞いてみました。
●中国人というだけでバイトの面接を断られる。「中国には携帯があるの?」と聞かれた。
●私はイギリス生まれの中国人。私に失礼な扱いをしたり、私が英語を話すことに驚く人がいる。

  このように、ステレオタイプは様々な問題を引き起こす原因になっているようです。そこで私たちは、「ステレオタイプは常に悪影響を及ぼすものか。」という質問を投げかけました。

  これについては、「常によい点はない。」と「必ずしも悪いとは限らない。」に意見が分かれました。

「よい点はない。」の理由は、
●差別問題につながる可能性が高い。
●個人として尊重されていないのだから結局は嫌な経験になる。

一方「必ずしも悪いとは限らない。」の理由は、
●状況とその人の人柄による。
●日本で私は「ガイジン」だったので、知らずに失礼なことをしても、理解してくれた。・・・でした。私たちの先輩は、「ステレオタイプと違ったときの発見は新鮮で、おもしろみがある。」と言っていました。「ステレオタイプは常に悪影響を及ぼすものだ。」と思い込んでいた私たちには、興味深い意見でした。

  「人は、未知のものを仮想グループに入れて、単純化する。」と言った人がいます。私たちも同じ意見です。そこで、「日本人は『日本人』に対するステレオタイプを持っていない。」という仮説を立て、クラスメートを対象に実験をしてみました。ところが、「勤勉で、眼鏡をかけている」などのイメージが出てきたのです。私たちの仮説は正しくないと証明されたわけですが、これは外国から逆輸入されたイメージのような気もします。

海外の友人たちも、自国のイメージを持っていました。しかし、一方で、「ベルギーは3つの公用語と3つのエリアがあり、みんな本当に違うから、自国のイメージを述べるのは難しい。」という返答もありました。私たちの仮説は必ずしも間違いではないのかもしれません。また、「イギリス、オーストラリアなどでは、多くの人種や共同体が暮らしているので、お互いの文化や宗教を理解しようとしている。」という話も聞きました。

  彼らとの意見交換は大変有意義で、お互いに、理解や考えを深めるきっかけになったと思います。

最後に彼らがくれたアドバイスは、
●お互いを理解し、相手を「個人」として見る。
●「個人」と「集団」のバランスをとる。
●開かれた視野で物事を見て、様々な価値観を知る。
●国際理解だけでなく国内理解も大切にする。
●自分で考え、決める。
・・・でした。今後もこのテーマについてクラス内外で議論を続けていくつもりです。

  日本のような、情報が過剰な社会においては、真実を選ぶことが極めて困難です。逆に極端に情報が少ない国においては、与えられた情報が全てと思いこんでしまう危険性も考えられます。また、私たちは、おとなからの先入観を受け継いでしまうこともあります。確かにステレオタイプは、未知なるもののイメージを持つには便利です。しかし、それが自分にとって未知であるという自覚を持っておかないと、他人を傷つけるだけでなく、自分の可能性をも失ってしまうと思います。

  また、「日本人は意見を言うのが苦手。」とホストファミリーに言われた人がいます。このことは、学校の一方向的な授業形態も影響していると思います。自分の意見を持たず、単純化された世界で生きることは、楽ですが、そこからよいものは生まれません。一方、「日本人の『集団意識』は必ずしも悪いものではない。」と言ってくれた友だちもいます。私たちが、お互いの違いを尊重しつつ、自分の考えを率直に伝えることができるようになれば、より広い世界を共有できると思います。

  私たちの目指す世界は、一面に同じ色をそろえたルービックキューブではなく、一つの面にあらゆる色が並ぶ未完成のルービックキューブ、つまり、逆ルービックキューブの様な世界です。それは、人種、宗教、国、文化に捕らわれず、その人「個人」をお互いが見つめる世界です。

  自分の目で見て下さい。自分の耳で聞いて下さい。自分の心で感じて下さい。そして、自分の言葉で伝えて下さい。

MlSSlON:逆ルービックキューブを完成せよ!!