現地隊員レポート             「りる」第60号より 

                                                    タイ      M.K.
                                                             平成23年度2次隊
                                         日本語教師
    

 

『タイの学校』

 私は今、日本人の旅行先としても人気のある東南アジアの国、タイに住んでいます。その中でもアユタヤのお隣、サラブリという県へ、日本語教師として派遣されました。学生約2、100名、教師約100名が在籍しており、タイでは中型規模の公立中高一貫校です。同校では、2008年に第2外国語としての日本語学習が開始され、現在、中高合わせて約150名の学生が、日本語や日本文化について学んでいます。

私は主に高校生約60名(各学年約20名ずつ)を対象に、タイ人日本語教師と協力して教えています。同校では、外国語は日本語の他、英語、中国語、フランス語、タガログ語が学ばれており、外国籍の教師も10名近く在籍しています。

 そんなタイでの学校生活も、早くも1年が経ち、折り返し地点を過ぎました。始めの頃は日本とは違う、タイならではの習慣や行事に一つ一つ驚いたり、おもしろがったりしていましたが、今ではもう、ごく普通の日々になりつつあります。この1年を振り返り、タイで高校教師をしてきた私の目からみた、タイならではの学校生活を紹介したいと思います。

 一般に日本人の宗教の内訳としては、仏教と神道が大半を占めていますが、タイは一部の地域を除き、国民の大半が信仰心の篤い仏教徒であり、そしてプミポン国王を敬愛する王国です。毎日行われる全校朝礼の中では、校歌、国歌に加え、全員が合掌した姿勢で、お経を唱えます。また、タイの街中と同様、学校の至る所に王様や王妃様の写真が飾られ、学校の周囲には王様や王妃様の旗が掲げられています。

そして、父の日(王様の誕生日)や母の日(王妃様の誕生日)、先生の日などの特別な日には、僧侶が学校にやって来て、学校全体でタンブン(喜捨、徳を積むこと。食べ物やお金を僧侶が持っている托鉢の中に入れる)が行われます。

 父の日の式典でタイ舞踊を踊る学生

式典も執り行われ、全員で王様の歌が歌われたり、学生によるタイの伝統舞踊やタイの伝統楽器を用いた音楽が披露されたりします。ちなみにタイでは、学校という身近なところでタイの伝統的な舞踊や音楽を見たり、聞いたりする機会がよくあります。これは、タイの伝統が次世代へときちんと継承されている証でもあり、とてもすばらしいタイの教育の一つだと感じています。

 学校で行われるタンブン

 他にもタイの学校の特徴はあります。来てすぐに受けた印象ですが、タイの学校はとにかくイベントが多いということです。上記で述べたような特別な日に行なわれる式典もそうですが、キャンプや大会などもよく行なわれます。ボーイスカウトキャンプや語学キャンプ(文化祭)などは、平日、休日問わず2泊から4泊で他県、場合によっては他国へ出かけていき、非日常的な環境で、いろいろな活動を通して学ぶスタイルのプログラムが用意されています。

大会もスポーツ、語学、音楽、お経など学校で学習する科目ごとに内容や規模も異なる様々なものがあり、11月頃からタイ全土で一斉に行なわれます。授業がよく中止になるのは困りますが、個人的には、イベントの引率であらゆる所へ連れて行ってもらい、とても良い経験をさせてもらっているとも感じています。

 このように、とにかくイベントが多い学校生活のためか、学生も活動型の学習を好みます。タイ人の先生方の授業スタイルを見ていると、学生は席に座って先生の話を聞く講義スタイルの学習が主なようですが、正直、学生は大人しく話を聞くような感じではありません。

もちろん全ての授業や学生ではありませんが、静かにするように叱られた1分後には、友だちとのおしゃべりを再開し、時には携帯電話で自分の顔を撮影、そのままフェイスブックに投稿・・・といった感じで教室は常にガヤガヤした雰囲気があります。しかし、授業中、そんな学生たちが全員、一つのことに集中している瞬間があります。

それはゲームの時です。タイの学生の良い所は、歌でも踊りでも恥ずかしがらずに積極的かつ楽しんで取り組むところです。とにかくノリが良いのです。ゲームなどの活動型の授業は非常に盛り上がり、活気があります。授業がつまらない時、そして面白い時、学生の反応は非常に正直です。

学生が楽しく日本語や日本文化を学べるよう、彼らの気質を生かして授業を組み立てたいところですが、それはそう簡単なことではありません。学生に企画・運営能力を鍛えられる毎日です。

 さて、日本とは様々なことを異にするタイでの学校生活ですが、ここでの生活が長くなるにつれ、元々、場に馴染みやすい自身の性格も相まって、タイ人化してきた自分に気づきます。初対面のタイ人の保護者や学生に、タイ人だと思われタイ語で話しかけられたり、日常でも日本人旅行者の「あっ、これ安い」の発言に反して、内心「うわっ、高っ」と思っていたり・・。最近は、学生も私が日本人であるということを忘れているのでは?と疑いたくなるような発言や行動も見受けられます。

 ですが、やはり私はタイ人ではなく、日本人だと感じる瞬間があります。わたしは提出期限や提出の有無、出欠確認などを厳格に記録し、学生にも口うるさく指導します。ある日のこと、時間や規則を厳守しようとする私に対し学生は、「どうして先生はそんなに時間や規則をきちんと守ろうとするんですか。他のタイ人の先生は、あまり気にしないのに」と言ってきました。

一般的に日本人は、規則や時間配分などを気にしながら物事を計画的に進めていきます。これは日本で生まれ育った私の行動にもそのまま当てはまり、タイ人に間違われるようになった今でも、当たり前のように行っていました。しかしその姿は、時間や規則に対しておおらかなタイでは、異質であり、上記のような学生の発言に現れてくるのです。

 タイ人に間違えられはするものの、やはり日本で生まれ育った日本人として、異文化のタイでの生活をサバーイ(快適)に満喫できているのは、周囲のホスピタリティあふれる温かいタイ人のおかげです。旅行やタイの日本人コミュニティの中では味わうことができない数多くの経験は、現地で現地の人と共に生活しているからこそ得られたものだと思います。

残りあと10ヶ月程度の任期、そんな経験を与えてくれたタイの人々に、私ができる恩返しを少しでも多くしたいと思っています。