現地隊員レポート    「りる」第39号より

                                                    ベトナム   A.F.
                                                             平成16年度1次隊
                                     養護
                                                                


『ベトナム便りW』

 只今、中部ダナンは雨季、かつ台風の季節。10月は、近年にないほどかなり大型の台風が上陸し、樹齢何十年の大木が次々となぎ倒され、長いところでは3日間の停電と断水、田舎では洪水も起こり何名かの子どもが死亡するという惨事になりました。もちろん学校は二日間休校。

ベトナムでは、まだ電話のない家もあるため、「学校休校」の連絡はもっぱら「テレビ」でのみです。そういうわけで、屋根が吹き飛びそうな勢いではためき、看板が空中を舞っているような中を、何名かの同僚や生徒は学校へ向かい、学校の門の前に掲示されている休校のお知らせを見て帰宅したようです。私は、教頭先生に連絡をして事前に休校を知り、家で待機していたのですが、赴任して1年4ヶ月経つ今も、ベトナムには驚かされてばかりです。

 さて、今回は、前回の「りる」でお話した「日本文化紹介」のイベントについてお話したいと思います。「ベトナムJOCV派遣10周年記念式典」における、生徒の手作りカードの売上を元手に、11月11日に向けて、8月から計画・予算案を校長先生に提出し、準備を進めました。

企画のメインは、私の日本の勤務先である「香川県立聾学校」との交流ということで、生徒の美術作品交流(香川県立聾学校では11月3日に文化祭が開催され、ベトナムの生徒作品が掲示され、日本の生徒たちも楽しんだようです)と同聾学校の様子を撮影したビデオの上映。加えて、「丸亀うちわづくり」「みたらし団子づくり」、最後に「ドラえもん音頭を踊る」というものです。
  事前のうちわの紙の貼付準備の様子

 ベトナムで、できそうなものを考えて企画したつもりでしたが、実際に準備を始めてみると思わぬ困難に遭遇しました。まず、香川県青年海外協力隊を育てる会から送っていただいた「丸亀のうちわ」を持って業者を回り、視覚障害者が運営している「竹加工業者」にお願いしたものの、何度も改良を重ねてもらい、骨を完成させるだけで1ヶ月を要しました。

その後、同僚と一緒に施行錯誤しながらうちわ80本に糸を張りました。日本の職人が作るものを、私達「ド素人」が作ろうというわけなので、結果は無惨なもの・・・。日本の玄人の作成した「うちわの骨」の横に、私達の「お手製のうちわの骨」置いて、「とても同じモノとは思えない!」と同僚と笑い転げました。

 私が、準備でてんてこ舞いしている様子を見て、生徒たちが「先生、それ何?」と尋ねるので、「11月11日の日本祭りのために、うちわづくりの準備をしてるのよ」とイベントの内容を説明すると、生徒たちも大喜びで、自分たちの休み時間を返上して「紙を折ったり、切ったり」を手伝ってくれました。

また、みたらし団子の串を市場で探したものの、結局見つけることができず、近所のおばさんに相談すると、彼女はなんと自分で大きな竹を一本買ってきて、それを割いて180本もの串を作ってくれました。

こうして、四苦八苦しながら準備を進めていったものの、肝心の「日本の交流作品とビデオ」がいつまで経っても届かず(郵便事情があまりよくないため)、届いたのはなんとイベント2日前の夕方。しかし、ありがたいことに、忙しい活動の合間をぬって、準備前日には、ベトナムのあちこちから9人もの隊員が手伝いに駆けつけてくれ、ビデオの様子をベトナム語に翻訳し、資料作り等をしてくれました。
  ゆかたの着付けを鑑賞

また、前日までは、声をかけても、手伝ってくれるのは一部の同僚だけで少し落胆していたのですが、前日は多くの同僚が絵の展示や、調理器具の調達を手伝ってくれました。日頃から感じていることですが、ベトナム人は往々にして準備に取りかかるのが遅いものの、土壇場になると恐るべき力を発揮するのです。・・・でも計画を立ててコツコツ地道に進める私(日本人)からすると、かなりハラハラするものがあります。

 そして、当日。生徒たちは、「香川県立聾学校のビデオ」の中で、日本の聾学校の生徒が勉強したり、寄宿舎で生活したりする様子を、自分たちの生活と比較して熱心に見入っていました。そして、うちわの絵付けでは、生徒それぞれが自信をもって絵を描いている姿がとても印象的でした。

赴任した当初、それぞれが牽制しあいながら、みんなが同じような絵を描いていたことを思いだし、自分の思うように描き、生徒同士で自慢しあっている姿をみて嬉しく思いました。中には、見本で見せた「丸亀の赤いうちわ」がとても気に入り、うちわ全体を真っ赤に塗って、漢字で「丸亀」と描いている生徒もいました(笑)。

 午後からのイベント、「みたらし団子づくり」では、できあがった団子を串に刺すのが生徒たちにはとても楽しかったようです。ベトナムにある材料で作ったため食感も日本と異なり(ちょっと堅かったかな?)、また初めての「みたらし団子のたれ」の味に「なんか、変な味!」と評する生徒もいたものの、さらにその上に「ダウサイン(きな粉に似たもの)」を振りかけて、「おいしいおいしい」と用意していたお団子はあっという間に全部なくなってしまいました。

 お腹が一杯になった後は、隊員による「浴衣の着付け」のデモンストレーションを鑑賞し、いよいよ最後の「ドラえもん音頭」。美術の作品づくりに追われ、事前の練習はあまりできなかったものの、生徒たちはよく踊りを覚えていてびっくりしました。生徒、同僚、協力隊、みんなで輪になって、うちわを持って楽しく踊り、こうして「日本文化紹介」イベントはめでたく終了。
  ベトナムの生徒の作品

今回参加してくれたほかの隊員からは「障害を持っている子どもたちが積極的に生きている姿に感動した」「ベトナム手話を勉強したくなった」「生徒たちがかわいくて、とても楽しかった」といった感想を頂きました。

 本校では、しばしば外国から単発の援助があり、外国人の訪問者も多いのですが、たいていは生徒が踊りを披露し、お菓子をもらうとすぐに帰ってしまうパターンがほとんどであるため、こうして一日、日本人とさまざまな活動にともに取り組めたことは、生徒たちにとってよい経験だったように思います。今、この「りる」の原稿を書きながら今回の企画を振りかえってみると、改めて、本当に多くの人の協力、援助があって開催できたイベントだったと思います。

 最後になりましたが、丸亀うちわの見本をたくさんいただいた丸亀市観光課様、それを紹介して下さった香川県観光協会の山西哲子様、またそれをベトナムまで送ってくださった香川県青年海外協力隊を育てる会の皆様、本当にありがとうございました。うちわの骨を作る上で、とても参考になりました。なお、このうちわはイベント終了後、協力してくれた同僚たちにプレゼントし、大変喜ばれました。

  出来上がったうちわと共に記念撮影